新しいライフスタイルとして台頭しているミニマリスト。
「物を持たない。」「物を増やしたらその分だけ物を減らす。」
生活に必要な物を取捨選択し、最低限の物だけで暮らす生活スタイルです。
整理整頓された、片付いた印象のミニマリズムは、ごちゃついた部屋を片付ける時にも必要な考え方ですが、巷に溢れるミニマリストインテリアの中に、「家具を置かない」「家具を買わない」「単に家具が無いだけ」「とにかくシンプルにすれば良い」と勘違いしたコーディネートが多いように思います。
ミニマリストインテリアの本来の意味、正しいミニマリストインテリアの作り方を解説していきましょう。
ミニマル(Minimal)とミニマム(Minimam)は違うことを理解しよう
ミニマル(Minimal)は、最小限の意で、同じ最小限の意味を持つミニマム(Minimam)とは意味が少し違います。
この2つの言葉は、似ている為、混合してしまいがちですが
- ミニマムは、一定の範囲の中の最小。最小サイズ等。
- ミニマルは、許容範囲ぎりぎりの最低限。
の意味です。
- ミニマル(minimal)…最小限。
- ミニマリズム(Minimalism)…最小限主義。
- ミニマリスト(Minimalist)…最小限主義の人々。
文字で書くと単語も意味も同じように見える「ミニマム(minimam)」と「ミニマル(minimal)」をインテリアに置き換えて、リビングコーディネートを1から考えていきましょう。
- 1.ミニマム(minimam)な考え方は、住人分の最低サイズの家具だけを置く。(人から選定)
- 2.ミニマル(minimal)な考え方は、人が通れる最低のスペースを確保して家具をレイアウトして行き、必要のない家具を減らしていく。(空間から選定)
となります。
「同じことでは?」と思うかもしれませんね。
具体的に、住人が自分だけだった場合の「椅子(ソファ)」「テーブル」「テレビ台」の選定の仕方を「ミニマム(minimam)」と「ミニマル(minimal)」で比較してみましょう。
- 椅子(ソファ):お尻がのっかる椅子1台(最小サイズ)
- テーブル:コーヒーカップが置ける台(最小サイズ)
- テレビ台:テレビを乗っけることができる台(最小サイズ)
- 椅子(ソファ):くつろぎ感のあるパーソナルソファ
- テーブル:窓からの風景をつぶさない程度の大きさ
- テレビ台:圧迫感のないシンプルデザイン
ミニマル(minimal)な考え方をする時に、重要になってくるのが価値観です。暮らし方やインテリアに対する価値観は、人によって違います。上記は、筆者が窓からの景色の価値観を重視している為、テーブルを選ぶとき、コンパクトなサイズを選定しましたが、景色に感心が無ければ、もっと大きなサイズを選定しても問題ありません。
つまり、自分の価値観を基準として「最低限必要だ」と思ったものを取捨選択して、快適な生活を送れる部屋を作ることがミニマリストインテリアです。
なかには「床にクッションを置いて座るので、椅子もソファも必要ない。」という考えの人もいるでしょう。これも、その人の価値観におけるミニマルなインテリアの作り方です。
黒の木のひじ掛けと暗い茶色のファブリックを組み合わせたアームチェア、黒のフロアランプ、黒の丸型ラグ、黒の暖炉、黒のバスケット(小物収納)をコーディネートした、くつろぎスペース。
薄い茶色の木製チェア2台、薄い茶色の木製サイドテーブル、茶色の木製サイドボード、黒の暖炉をコーディネートしたオープンリビング。
ホワイトレザーの2人掛けソファ、黒の長方形コーヒーテーブル、ホワイトのローボード、ホワイトのオープンシェルフをコーディネートした長方形リビング。
大きな掃き出し窓に向かって、茶色の木目の長方形テーブル、薄い茶色の木目のチェア、黒のフロアランプをコーディネートしたリビング。
ミニマリストはミニマムから派生した言葉ではなく、ミニマルから派生した言葉です。
同じようなインテリアに見えても、考え方や手順が全く違います。
ミニマルを意識したインテリアの作り方を、ミニマル(ミニマリズム)とよく似たスタイルのシンプルと比較しながら紹介していきましょう。
ミニマリズムなインテリアを作る方法
「物を捨てる」「物を置かない」「殺風景」など、部屋をシンプルにすることが、ミニマリスト。
そう思っていませんか?
ミニマリズムは「最小限(しかも許容範囲の中の最小限)」であって「単純」「単調」な印象のシンプルとは少し違います。
最小限の中に、ある程度のこだわりがあるのがミニマリズムだと筆者は考えていて、シンプルとミニマリズムの最大の違いは「退屈と感じるか否か」ではないかと思います。
「シンプル」vs「ミニマリスト」
インテリアで言えば、「シンプルなインテリア」と「ミニマリズムなインテリア」は異なり、ミニマリズムなインテリアは洗練された印象が強い気がしています。
全てを排除するのではなく、ある1点にこだわりを持つこと。この1点を際立たせるために、他の要素を削ぎ落とすのがミニマルなインテリアの本質的な考え方です。
ナイトボードの繊細な印象のディスプレイを際立たせるために、ホワイトやアイボリーでカラーコーディネートしたベッドルーム。
天然木の美しい質感の家具を際立たせるために、コンクリート調床・鏡面ホワイトのベッド・ホワイトのベッドリネンを組み合わせたベッドルーム。
2面の美しい木目の家具と壁を強調する為に、無機質な無彩色(黒・グレー)でソファ・ラグ・コーヒーテーブル・クッションをコーディネートしたリビング。
選んだ1点が、有名デザイナーの家具だったり、色だったり、本物の素材だったり、ディスプレイだったり…、と、人によって何を心地良く感じるかは違います。
自然豊かな田舎育ちだと、コンクリートとホワイトを組み合わせた無機質な家よりも、木や植物などの自然を取り入れたインテリアの方が心地良いと感じるでしょう。
この場合、暮らしに欠かせない自然の要素をインテリアの中に、許容範囲で最小限に取り入れ、この要素を目立つようにコーディネートするのがミニマリストです。
- ごちゃっと見えないこと。
- 片付いていること。
- 無駄なものがないこと。
これは、シンプルでもミニマルでも共通ですが、単純に「真っ白で何も無い殺風景なインテリア」だけが、ミニマリストのインテリアではないことを覚えておきましょう。
カラーコーディネートの考え方
「ミニマリストはシンプルである。だからインテリアも、ホワイト一択か無彩色のみ。」
「ミニマリストのインテリアは、主張色が無い。だから、何も無い雰囲気のカラーコーディネートにする。」
ホワイトは部屋をすっきりとさせるのに最適な色です。その為、ホワイト一択でも問題ないのですが、ミニマリズム本来の考え方は、一つを強調する為に、他を削ぎ落とすことです。
ホワイトのフラット扉のⅡ型対面キッチン。(シンプル)
壁面タイルや暗いワインレッドのカウンターチェアを際立たせるために、ホワイトにしたⅡ型対面キッチン。(ミニマリスト)
カラーコーディネートの場合「ホワイトだけを使う」や「ホワイトにもう1色を足す」のではなく「この色やこの質感を目立たせる為に他の色を目立たなくする」のが正しい色の選び方だと筆者は考えます。
先に書いた「ホワイト一択」「何も無い雰囲気のカラーコーディネート」は、ミニマリストではなく、単なるシンプルなインテリアです。
掃き出し窓からの景色が見えるように、灰みがかった薄いグリーンの2人掛けソファをコーディネート。
ソファの前に、ホワイトの長方形コーヒーテーブルを置き、黒のレザー製チェア2台を掃き出し窓を避けてハの字にプラス。掃き出し窓横のコーナーにホワイトのランプを2灯吊り下げ、陰影を使って、くつろぎ感を演出。
ホワイトの壁、ホワイトのレンガ調壁の長細いリビングに、グレーのシンプルなデザインの2人掛けソファをコーディネート。
レンガ壁の前に茶色の木目脚と黒の天板を組み合わせたベンチ、反対の壁を背に黒のファブリックチェアを2台プラス。チェアとベンチの間に黒の木製コーヒーテーブルを置き、花をディスプレイ。テーブルランプの脚、ベンチの上の雑貨、蓋付バスケットで黄色を取り入れ、明るさをアップ。
白っぽいベージュのラグを敷いたリビングに、薄いグレーの3人掛けソファをコーディネート。
暖炉の周りにホワイトのタイルを張り、グレーのコンクリート調のカウンターをプラス。暗いブルーの正方形クッションと暗い赤の薄いクッションを積み重ねて薄い茶色の木製円形コーヒーテーブルの隣にレイアウトし、くつろぎを演出。
茶色のヘリンボーン床のリビングの壁に沿って、茶色の木目調の台とホワイトのファブリックを組み合わせた2人掛けソファをL字にコーディネート。
ソファの前に、ソファの台と同じ木目のシンプルなデザインの長方形コーヒーテーブルをプラス。通路側に脚が短い木製スツールをレイアウトし、リラックス感をアップ。
ベージュの壁のリビングに、白っぽいグレーの寝椅子付き2人掛けソファをコーディネート。
ソファの前にダークブラウンの木目の長方形コーヒーテーブルを置き、壁を背にダークブラウンのフロートタイプのテレビボードをプラス。天井に黒のダクトレールをコの字に這わせ、シャープな印象をアップ。
白っぽいグレーのラグを敷いたリビングに、白っぽいベージュの寝椅子付き2人掛けソファをコーディネート。
ソファの前に黒の円形コーヒーテーブルを置き、ソファと同色のパーソナルソファを2台対面にプラス。天井から先端にフィラメントボール球が6灯ついたペンダントランプを下げ、温もりをアップ。
ホワイトの壁とグレーのコンクリート天井のリビングに、黒レザーの2人掛けソファをコーディネート。
ソファと反対側の壁に天井高の半分くらいの高さの黒の木目の収納家具をレイアウトし、掃き出し窓側に背の高い観葉植物をプラス。ソファの前にシルバー脚と黒天板を組み合わせた小さめのコーヒーテーブルを2台置き、整然とした印象をアップ。
茶色のヘリンボーン床とグレーの壁を組み合わせたリビングに、薄いグレーのラグを敷き、黒の寝椅子を2台L字にコーディネート。
通路側に黒レザーのハイバックラウンジチェアをプラス。ソファの背中側の壁に黒鏡面の収納家具をズラズラと並べ、ゴールドの額縁に入れたアートをディスプレイ。
家具デザインの考え方
ミニマリストなインテリアを作るのに「家具は直線的なデザインにして、殺風景な印象を作らなければならない。」と思っていませんか?
先述した通り、価値観の中で必要なもの厳選し、それ以外との差をつけるのがミニマリストです。インテリアに興味があり、部屋の顔として、デザイナーズ家具、憧れのチェアなどを置きたい場合、これらをレイアウトしても、何ら問題はありません。
その家具を置くことで、空間の余裕が無く散らかった印象になってしまう場合は、
- 他の家具を無しにするか、コンパクトにする
- 他の家具を目立たない色にする
など工夫しましょう。
丸みのある家具
湾曲した濃いベージュの3人掛けソファをコーディネート。
ソファの前に濃いグレーのラグを敷き、ホワイトの円形コーヒーテーブルを2台プラス。ソファの斜め前に、黒っぽい青のラウンジチェア、ソファの隣に黒の円形サイドテーブルと観葉植物をレイアウトし、リラックス感をアップ。
壁を背に丸みのある黒の3人掛けソファをコーディネート。
ソファと対面にデザイン性の高い黒のチェアをプラス。2つの腰窓の間の壁に黒のブラケットランプを取り付け、下に背の高い枝をガラス瓶に入れてディスプレイ。
デザイナーズ家具
ベージュの大きなラグを敷いたリビングに、オフホワイトの寝椅子付き3人掛けソファをコーディネート。
白っぽい茶色の木目のローテーブル、茶色の木目のラウンジチェアをプラス。ラウンジチェアは、ハンス・J・ウェグナーのCH07 Shell Chair。
リビングのコーナーにホワイトのシャギーラグを敷き、ホワイトレザーのラウンジチェア&オットマンをコーディネート。
ロールスクリーンはラグと同じオフホワイト。雑貨・花瓶・サイドテーブルはホワイト。チェアは、ハーマンミラーのイームズラウンジチェア。
オープンキッチンの隣にあるリビングエリアに、グレーのシンプルなコーナーソファをコーディネート。
ソファの前に黒の金属脚と薄い茶色の木を組み合わせた小さな丸型テーブルを置き、オレンジ色のプラスチックチェアをプラス。チェアはヴェルナー・パントンのパントンチェア。
ディスプレイの考え方
「ミニマリストは、壁に何も飾らない。」
「ミニマリストは、カウンターに何も置かない。」
とにかく「インテリアを飾らないことが正しい」というような記述をよく見かけますが、これはミニマリズムの「物を持たない」「装飾をしない」を誇大解釈してしまった結果だと思います。
インテリアにとって「飾る」は、洗練さを演出するのに欠かせない要素です。
ミニマリストの正しいディスプレイは、「飾りたい物を最小限に抑えて美しく飾る」です。
ホワイトの壁に沿ってホワイトレザーのフロアコーナーソファをコーディネート。
入口正面の壁に、ブルーのアートを1枚ディスプレイ。フロアランプとコーヒーテーブルをシルバー×ホワイトで統一し、テレビはテレビボードではなく、シルバーのテレビスタンドを使ってレイアウト。
リビングエリアにアイボリーのラグを敷き、ベージュの丸みのある2人掛けソファをコーディネート。
ソファの前に黒のファブリック製丸型テーブル、ソファと対面にホワイトレザーのラウンジチェアを2台プラス。壁に黒・ベージュ・黄色・青のグラデーションアートを1枚飾り、高級な印象をアップ。
縦長リビングのダイニングとリビングの壁に、薄い茶色の天然木の板をディスプレイ。
ダイニングは薄い茶色の木と茶色の木、リビングはホワイトで配色。ホワイトをメインに広々、すっきりな印象を演出し、木でリラックス感をアップ。
ホワイトと薄いグレーで配色したリビングダイニングに、ユニオンジャック柄の冷蔵庫をコーディネート。
薄い茶色のフローリングのリビングに、アイボリーの2人掛けソファ、ホワイトの三角形コーヒーテーブル、ホワイトのローボードをコーディネート。
壁の高い位置に黒の額縁に入れたアートを3枚ディスプレイ。ハートや丸など主張の少ないデザインの絵を3枚キチンと並べて飾ることで、整然とした雰囲気をアップ。
ベージュのラグを敷いたリビングに、グレーの3人掛けソファをコーディネート。
ソファと対面に黒のスツール型の家具を置き、液晶テレビと黒の額縁に入れた絵をディスプレイ。
隣に対面キッチンがあるリビングに、グレーの2人掛けソファをコーディネート。
ソファの前にホワイトのラグを敷き、薄い茶色の木目の円形コーヒーテーブル、ホワイト鏡面のテレビボードをプラス。ソファ上部の壁に、背中がペールグリーン、ペールブルー、ペールピンクのホワイトのオープンラックを取り付け、ホワイトの動物のオブジェ、ガラス雑貨をディスプレイ。
いかがでしたか。
- 木の質感を強調する為に、無機質な無彩色と組み合わせる。
- 黄色を目立たせる為に、反対色の紫を使う。
- 布の温もりを強調する為に、冷たい素材と組み合わせる。
私達が惹かれる飾り過ぎないインテリアコーディネートは、全て、ミニマリズムの考え方に近い気がします。
ミニマリストは「上記の組み合わせを究極に絞ったスタイル」と考えると、数々の事例を見て「全然シンプルじゃない」「物が置いてあるからミニマリストではない」「壁に何か飾ってあるからミニマリストではない」と感じた方も、何となく意味がわかるのではないでしょうか。
また、センスのあるミリマリストインテリアを作るコツは「価値観を見出し、その価値観を最小限にして取り入れる」ことです。この価値観と最小限は人によって違う為、今回紹介した実例の中に「ミニマリストインテリアではない」と感じるものが含まれているのは当たり前のことです。
なお、元々「インテリアに価値観を持っていない」「何も興味も無い」という方は、このページで紹介した“こだわり”をさほど気にする必要はありません。